プロフィール
今の実践女子学園などを創設した、わが国、近代日本の女子教育の先駆者です。安政元(1854)年に、美濃国〈みののくに〉岩村藩(今の岐阜県恵那市岩村町)の士族の娘として生まれました。幼少のころから聡明で、3歳で最初の和歌を詠み、3~4歳のころから中国の古典の読み方を聞いて覚え、優れた画才も備えていました。
明治4年(1871)、16歳で上京すると、翌年、推挙されて宮中に出仕し、女官として皇后陛下(後の昭憲皇太后)に仕えました。宮中の歌会で優れた和歌を詠み、皇后より「歌子」の名を賜りました。宮中で8年間、和歌と和漢洋学を深く学び、教養を高める機会を得ました。
明治初期の社会は、前代の身分関係や意識が一掃されず、旧制度の殻をかかえていた時代でした。当時の女子教育も遅々たるもので、時代にふさわしい女子教育者の出現が切望されていました。
宮中を辞した歌子は、当時、政府の要人として活躍していた伊藤博文、山県有朋、井上毅らの勧めに従い、明治15年(1882)、自宅に私立学校を開設し「桃夭〈とうよう〉学校」と名付けました。「桃の若い木は燃え立つように輝いている。その花のような女性が嫁げばその家には幸せが訪れる」という『詩経』の一節からの命名です。
この学校では、歌子を中心に国文漢学、習字などが教えられ、特に「源氏物語」の講義と和歌の指導に力が注がれ、上流家庭の子女が多く入塾しました。アメリカに留学から帰国したばかりの津田梅子(津田塾大学の創設者)も英語担当の教師として加わっています。当時、歌子は28歳でした。
明治17年(1884)、歌子は、華族女学校創設に携わり、翌年の開校と同時に監事兼教授に就任。上流家庭の子女143名に対する教育を行ないました。
明治26年(1893)、39歳の歌子は、イギリス王室や欧米各国の女子教育状の視察を命ぜられ、渡欧しました。パリを経てロンドンに渡り、下宿して私立女学校にも通いました。バッキンガム宮殿では、袿袴衣装でビクトリア女王にも謁見しています。その後、スイス、アメリカ、カナダ等を歴訪して2年間の外遊を終えて帰国しました。
華族女学校に戻った歌子は、さまざまな学園の改革を実施しました。
そして、明治31 年(1898)、帝国婦人協会を設立。上流階級だけではなく、広く一般の女性に知識、技能を授け、品格を磨かせ、自活できる道を与えるという画期的な事業を始めました。それは、16歳でふるさとを離れ、宮中に出仕したころから、歌子が夢見ていたことでした。
翌明治32年に協会付属実践女学校(現在の実践女子学園)と女子工芸学校を開校。以来、幾多の女学校の開設に関わるとともに、女性の啓蒙運動に携わりました。
歌子が残した、
「女性の清らかな感性と豊かな情操をもって社会の弊害を正せ」
「揺籃〈ようらん〉(ゆりかご)を揺〈ゆる〉がすの手は以〈もっ〉て能〈よ〉く、天下を動かすことを得べし」
という言葉に代表されるように、歌子は、近代日本の女性の自立と地位向上、現代の言葉でいえば、ジェンダー平等と教育の機会均等に、女子教育に生涯を捧げた歌子は、昭和11年(1936)、83歳の生涯を閉じました。
ことば
綾錦〈あやにしき〉 着てかへらずば 三国山〈みくにやま〉
またふたたびは 越えじとぞ思ふ
明治4年(1871)、16歳でふるさと岩村から東京へと旅立った時に、国境の三国山をこえ、ふるさとをあとにしたときに詠んだ歌。「志をとげて美しい綾錦の着物を着て帰らなければ、三国山をもう一度こえてふるさとへもどろうとは思いわない」という意味。
「揺籃〈ようらん〉を揺るがすの手は、もってよく天下を動かすことをうべし」
実践女子学校(今の実践女子学園)設立にあたり、アメリカの詩人、ウィリアム・ロス・ウォレス(1819-1881年)のことばを引いて、学校設立の意義や自らの大志を世に問ったことば。「揺籃」(ゆりかご)をゆらす手、すなわち、女性こそが世界を動かすことができるという意味。
より深く知るために
関連施設
岩村歴史資料館〈いわむられきししりょうかん〉
[住所] 〒509-7403 岐阜県恵那市岩村町98番地
[電話] 0573-43-3057
[開館時間]
(4月~11月)午前9時から午後5時
(12月~3月)午前9時30分から午後4時
[休館日] 毎週月曜日(但し祝日と重なった場合はその翌日)、祝日の翌日年末年始(12月28日から1月4日)
[入館料] 一般 300円、シルバー(65歳以上)200円、高校生以下 無料
団体割引 30人以上 2割引
関連施設
実践女子大学 香雪記念資料館〈こうせつきねんしりょうかん〉
[住所] 〒150-8538 東京都渋谷区東1-1-49
実践女子大学渋谷キャンパス 創立120周年記念館1階
[電話] 03-6450-6805
[開館時間] 午前11時から午後5時
[休館日] 土・日・祝日・大学休業期間
※企画展の開催がない場合は休館する場合があるので、HP等で要確認。
[入館料] 無料(正門右の警備室に資料館に入館の旨を伝えて入館)
本・マンガ
恵那市ふるさと学習読本vol4 ふるさと人物編1
『家庭こそ最良の学校ですー下田歌子先生の生き方・考え方』(童門冬二著、恵那市教育委員会)
『きらりうたこ』(牧野和子著、杉原萌原案、実践女子学園監修、小学館スクウェア)
『現代語訳 女子の修養―明治の女性学』(下田歌子著、NPO法人いわむら一斎塾)
『新編 下田歌子著作集』(下田歌子著、実践女子大学 下田歌子記念女性総合研究所)